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初夏の風が清々しい ある日の放課後だった 月樹学園2年1組
古家聡美(ふるいえ さとみ)は この学園の美術教師で 2年1組の担任
西田真美に絵のモデルを頼まれ美術室に来ていた 「ごめんなさいね
古家さん! 無理なことお願いして・・・。」 いえいえ 私はどうせ暇です
から・・・。 それに先生の絵のモデルにしてもらえるなんて光栄ですよ」
「ありがとう古家さん! じゃあ とびっきり美人に描かないとね!」
「もちろん そう願います!」 そう言い返した古家に対して西田は
「分かりました! では精一杯 心をこめて描かせて頂きます」 そう言って
ニッコリと微笑んだ 「その前にコーヒーでも入れるから ちょっと待ってて」
そう言うと西田は準備室の方へと入っていった ひとり美術室に残された
古家は 「そうだ! すずちゃんにメールしなきゃ」 そう言うと カバンから
携帯を取り出し 親友の “すず” にメールを打ち始めた “すず” こと
“基喜すず” 古家と彼女は 幼い頃からの友人で 同じ月樹学園の
2年2組に在籍していたが この日 何故か無断欠席していたのである
「これで良し・・・っと 送信!」 メールを送信した 次の瞬間 古家の耳が
そばだった 何処から聞こえてくるのかは分からなかったが すずの携帯
の 「着メロ」 が遠くの方から聞こえてきたのである それは一瞬だった
が確かに すずの携帯の音だった しばらくして西田が準備室からコーヒー
を持って出てきた 「先生! 今そっちで携帯が鳴りませんでしたか?」
「携帯? いや 私は聞こえなかったけど・・・。」 「やっぱり 私の空耳
だったのかなぁ?」 疑問に思いながらも 「きっと空耳だったのだろう!」
と自分に言い聞かせ古家は話題を変えた
「あの薔薇は先生が手入れされているんですよね」 美術室の窓の外に
目をやると そこには綺麗に手入れされた 真っ赤な薔薇の花が今を
盛りに咲いていた 「綺麗ですよね〜」 「古家さんは花が好きなのね」
「ハイ! 少しですけど 私も自宅のベランダで 園芸の真似事をしてるん
です」 西田は そう答える古家の顔を見ながらニッコリと微笑み返した
「でもね 一輪だけがまだ咲かないのよ ほら あの一番左にある蕾!」
「ホントだ! 他の花はみんな綺麗に咲いてるのに・・・。」
・・・と
そんな話をしていた 次の瞬間 古家が突然 大声をあげた 「あっ!」
「どうしたの古家さん? 急に大きな声出して・・・ビックリするじゃない」
「すみません先生! 塾へ行く日が きょうに変更になったのを すっかり
忘れてました」 「あらあら それは大変! 私の方は何時でもいいんだ
から早く行きなさい」 そう言われて古家は 大急ぎで熱いコーヒーを
啜ると猛ダッシュで美術室を飛び出していった
あくる朝 学校へ登校してきた古家を基喜のクラス担任 墨田誠司が
呼び止めた 「古家! 実は一昨日(おととい)から基喜が行方不明
なんだが お前 何か知ってることはないか?」 「えっ! すずちゃんが
行方不明ですって」 「一昨日の午後まで私 すずちゃんと一緒でした」
古家の説明によると その日は 授業が午前中で終了だったため
午後から二人でショッピングに出かけたとのこと 駅前のファンシー
ショップで お揃いのカチューシャを買って その後 「お茶でもしようか?」
と言った時 急に基喜が 「大事な約束を思い出した!」 と言って
そのまま帰ってしまったのだとか・・・。 「どこへ行くのか 聞かなかった
のか?」 「すごく 急いでたみたいだったので聞く間もなかったんです
きのう 携帯にもメールしてみたんですが 返事がなくて・・・電話もかけて
みたんですが ずっと圏外みたいなんです
「・・・また 謎の失踪かぁ〜」
墨田は つぶやくようにそう言った! 「 “また” ってどう言うことですか
先生!」 「実は3年前にも 私のクラスの生徒で讃岐純子って言う生徒が
行方不明になったまま 未だに見つかっていないんだよ その子は歌の
好きな子でね よく放課後 音楽室でピアノを弾きながら歌ってた!
明るい性格でクラスでも人気者だったんだけど それがある日 突然
いなくなったんだ! そう言えば 彼女がいなくなったのも 今時分の
季節
だったよなぁ〜」
その日の放課後 どうしても きのうの着メロの一件が気になった古家は
再び美術室へ行こうとしていた 渡り廊下に差し掛かったところで ふと
掃除用具の納屋の方に目をやると 陰から古家を手招きをする一人の
女性がいた それは この春に月樹学園の用務員として勤務になった
ばかりの多西時子(たにし ときこ)であった 「お友だちが行方不明
なんですって?」 「ハイ そうなんです」 「実は同じような事件が前にも
あったの」 古家は さっき墨田から聞いた讃岐純子のことだろうと
思ったが ここは素直に多西の話を聞くことにした しかし 彼女の口から
出た話は それとは全く別の話だった 聞けば 担任の西田が まだ
新任教師で 月樹学園に来る以前に勤務していた なでしこ女子学園と
言うところでも 今回と同じような失踪事件が起こっていて 結局まだ
未解決のままだと言うのだ 多西によるとその生徒は 30年前 西田の
担任だったクラスの生徒で大木美紗枝と言う生徒だということだった
「30年前ですってぇ〜」 古家は 「こんな時にふざけるなんて・・・。」 と
思い 少し憮然とした表情で多西に目をやった 何故そんなことを知って
いるかと言うと 多西が言うには 自分と西田は高校時代の同級生だと
いうのだ! お互い話をしたこともなかったし 向こうも多分 私のことを
覚えてはいないだろうけど 確かに同級生だと多西は言う! でも
そんなはずは絶対ない! 多西はどう見ても50代半ば 方や西田は
多く見積もっても30歳! 小さな子供が判断しても その年の差は明らか
だったからだ 古家は多西の話を軽く聞き流し美術室へと向かった
教室のドアを開けると そこには誰もいなかった しかし準備室のドアが
10cmほど開いていたので 中に西田がいると思い声をかけた
「西田先生〜 古家です〜」
・・・がしかし 返事は無かった 恐る恐る
部屋の中を覗くと そこには イーゼルに載せられたままの一枚の絵が
置かれてあった 古家は 多少の罪悪感に駆られながらも回り込んで
その絵を覗き見た! 「こっ これは!!」 古家が驚いたのは無理も
なかった そこに描かれていたのは 基喜の姿だったのだ しかも
絵の中の基喜が頭につけているカチューシャは あの日 古家とお揃いで
買った あのカチューシャだった 「あの後 すずちゃんは ここに来たん
だわ でも一体どう言うことなの? そうだ!」 古家は気を取り直して
基喜の携帯にメールを送ってみた すると準備室に置かれた西田の
机の引き出しの中から 基喜の携帯の着メロ(大学堂のテーマ)が
聞こえてきたのである 古家は その音のする引き出しを恐々開けてみた
するとそこには やはり携帯があった そしてそれは 紛れもなく基喜の
携帯だった 「でも なんで西田先生の机の中に・・・?」 そんな疑問に
駆られていたその時 古家の目に意外なものが飛び込んできた
それは準備室の床の上に無数に置かれているうちの一枚の油絵の
キャンバスの裏側に書かれた 「2000、5、讃岐純子肖像」 と言う文字
だった 「これは確か
墨田先生が
言ってた 3年前に行方不明になった
人の名前!」 その絵を良く見ようと手にとった瞬間 また古家の目が
凍りついた 讃岐純子の肖像画と重なっていた もう一枚のキャンバスの
裏側に書かれた 「大木美紗枝肖像」 と言う文字が目に入ったのだ
「これは さっき用務員の多西さんが言ってた 30年前に行方不明に
なったと言う人だっ!
・・・
と言うことは多西さんの話は嘘じゃなかった
と言うことなの? それにしても行方不明になった人たちの絵ばかりが
何故ここに?」 古家は そう思った瞬間 自分が 「とんでもないものを
見てしまったのではないか・・・。」 と思って 全身に鳥肌が立った!
・・・と
次の瞬間 古家は背中に人の気配を感じて振り返った すると
そこには西田が立っていた 「ここで何をしているの 古家さん!」
言われた古家は ビックリして腰を抜かし 床におしりをついて座り込んだ
古家は そのまま西田を見上げながら 恐る恐る尋ねた 「先生!
この絵は?」 すると
西田は 「見たのねッ! ・・・なら聞かせてあげる
・・・この生徒たちは みんな花が大好きだったの それに若くて可愛くて
・・・。」 そんなことを聞いてるんじゃなくて すずちゃんが何処へ行った
のかを聞いてるんです 行方不明になったあの日 ここに来たんでしょ
何処へ行ったんですか 先生! 答えてください!」
そう叫ぶ古家に
西田は静かにこう言った 「基喜さんなら ほら
そこに・・・。」 そう言って
西田が指を差した方向は あの真っ赤な薔薇の花壇だった 「あの
薔薇はね み〜んな私の可愛い子供たちなの! 基喜さんだけじゃ
ないのよ
大木さんも
讃岐さんも み〜んな私の子供たちを “綺麗だ”
と言って褒めてくれたの子供たちも すっかり彼女たちが気に入ってね
だから
・・・。」 「・・・だから どうしたと言うんですか?」 その問いに
西田は
古家に背中を向けると 窓の外の薔薇を眺めながら しばらく
黙っていた
そんな西田の背中を眺めながら 動揺している自分の頭の中を懸命に
整理していた古家だったが 次の瞬間すべてを悟った 「まっ! まさか
・・・。」 思わず口をついて出た古家のこの言葉に 黙っていた西田が
口を開き 「考えてみて古家さん! 人間は みんな歳をとると老いて
やがては死んでいくでしょ でもね こうして薔薇になることで 毎年美しく
咲き続けることが出来るのよ 素晴らしいと思わない? さぁ 今度は
古家さんが私の子供となって 最後に残った あの蕾を綺麗に咲かせて
やって!」 古家は あまりに現実離れした西田の言葉に訳が分からなく
なっていたが とにかく ここから逃げなければ・・・と思い準備室のドアに
手をかけ外へ出ようとした・・・と その時 同時に準備室に入ろうとした
墨田と鉢合わせになり 墨田に ぶつかった古家は また床の上に
尻餅をついて倒れた 「大丈夫か古家!」 そう言って手を差し伸べた
墨田の顔を見て 今まで張り詰めていた恐怖心から一気に開放された
安堵感からか胸にしがみついて オイオイと泣き崩れた 「どうした古家」
墨田の言葉に しばらくして いささかの正気を取り戻した古家は 事の
一部始終を泣きながら墨田に話した すると墨田は 「そうか! 大丈夫だ
もう何も心配することは無いぞ古家! 何も心配することは無い・・・。」
そう言って 左腕でしっかりと古家を抱きしめると 古家の頭越しに西田と
目を合わせ 小さく微笑んでうなづくと静かに右手で準備室のドアを閉めた
〜完〜
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